日泰寺型戦争紀念碑をめぐる⑦ 静岡県袋井市山崎《紀念碑》

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当ブログでは愛知県名古屋市日泰寺の《第一軍戦死者記念碑》とその影響下で成立したと思しい戦争紀念碑を「日泰寺型戦争紀念碑」と総称し、事例の収集に努めると共に、《第一軍戦死者記念碑》の造形が後続の戦争紀念碑にどう継承されていったのかを検討しています。今回は静岡県袋井市山崎の《紀念碑》を取りあげます。

日泰寺型戦争紀念碑をめぐる⑦ 静岡県袋井市山崎《紀念碑》
袋井市山崎には昭和31(1956)年まで小笠郡笠原村の役場がありました(註1)。当時の門柱が遺っており、右奥に戦争紀念碑が並んでいます。

日泰寺型戦争紀念碑をめぐる⑦ 静岡県袋井市山崎《紀念碑》
旧笠原村役場跡の戦争紀念碑は4基あり、中央が日泰寺型の《紀念碑》です。その右側に大正元(1912)年11月建立の《忠魂碑》、左側に昭和29(1954)年9月建立の《忠魂碑》、さらに、大正の《忠魂碑》の後方に小さな《征清凱旋紀念碑》〔明治30(1897)8月建立〕が配置されています。

日泰寺型戦争紀念碑をめぐる⑦ 静岡県袋井市山崎《紀念碑》
日泰寺型の《紀念碑》は二段の方形基壇に円形の台座を据え、本体と砲弾形を載せています。本体に比べ、砲弾形と笠形がやや大きく、上部が重い印象です。

基壇上段の4面には暗灰色の別石を貼りつけ、日露戦争(銘文中では「明治三十七八年戰役」)から帰還した出征軍人の氏名および兵科、階級を列記しています。

日泰寺型戦争紀念碑をめぐる⑦ 静岡県袋井市山崎《紀念碑》
本体正面には題号「紀念碑」(註2)と揮毫者名「陸軍大将正三位勲一等功一級伯爵寺内正毅書」が刻まれています(註3)。題号と揮毫者名は長方形に彫り下げた区画内にあり、一手間かけた丁寧な加工で、装飾性も備わっています。

日泰寺型戦争紀念碑をめぐる⑦ 静岡県袋井市山崎《紀念碑》
背面にまわると、「大正元年十一月 笠原村奬兵會建之」という銘文が見えます(註4)。この銘文により《紀念碑》が大正元(1912)年11月の建立であること、造営を主導したのが笠原村奨兵会であることがわかります。笠原村奨兵会の実態は不明ですが、他の市町村の例を踏まえると、村長が会長を兼ねた官民一体の組織で、出征軍人およびその家族の援助や慰労を目的とし、村内のすべての戸主が入会していたと考えられます。

日泰寺型戦争紀念碑をめぐる⑦ 静岡県袋井市山崎《紀念碑》
ところで、先述したとおり《紀念碑》右側の《忠魂碑》も大正元(1912)年11月の建立です。題号の揮毫者も寺内正毅なので、この2基は同時に造営されたように思います。しかし、《忠魂碑》は建立者が「帝國在郷軍人會笠原村分會」であり、表側に日清・日露戦争において戦没した軍人、裏側に日露戦争から帰還した軍人の氏名、兵科、階級が列記されています。

つまり、《紀念碑》は一般村民が帰還軍人を顕彰したものであり、対して《忠魂碑》は予備役、後備役など現役を離れた軍人(在郷軍人)が帰還軍人の顕彰と共に戦没軍人を慰霊したものと言えます。

主に一般村民から構成される笠原村奨兵会の建立した《紀念碑》において慰霊の性格が認められないのは興味深いところです。当時、彼らの関心は戦没者より帰還者に向いていたのかもしれません。

日泰寺型戦争紀念碑をめぐる⑦ 静岡県袋井市山崎《紀念碑》
なお、裏側の銘文によると、《忠魂碑》の製作を担当したのは浜松の石工、佐藤善三郎でした(註5)。銘文はないものの、おそらく《紀念碑》もそうでしょう。以前取りあげたように、佐藤善三郎は愛知県一宮市の《忠魂碑(殉国碑)》の造営を請け負っており、浜松市中区利町の《誠忠碑》にも携わっていたと考えられますが、小笠郡でも仕事を行っていたとは驚きました。戦争紀念碑の造営に関して静岡県西部地区では有名な石工だったのではないかと思います。

【註釈】
(1)①鈴木博「笠原地区の忠魂碑」(『ふるさと笠原』第8集掲載、2003年)、4頁
(0)②鈴木博「笠原地区の忠魂碑」(『新ふるさと袋井』第23集掲載、2008年)、15頁
(2)註(1)同報告では「紀」を「記」としています(①9頁、②18頁)。
(3)題号揮毫者の寺内正毅は明治45(1912)年5月31日に従二位へ昇っており(『官報』第8684号、1912年6月1日)、《紀念碑》が完成した時にはそこに刻まれている正三位ではありませんでした。逆にいえば、寺内が題号を揮毫したのは明治45(1912)年5月30日以前となるはずです。
(4)註(1)同報告では「奬」「會」を「奨」「会」としています(①9頁、②18頁)。
(5)佐藤善三郎に関する銘文は以下のとおりです。
(0)(0濵松市紺屋
(0)(0)(0)石工 佐藤善三郎



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